99 – TOTO|どんな時代でも、変わらない愛のかたち。
≋ Gentle Waves no.11 ≋

・Prelude|99 – その数字に込められた意味
・Drift|誰かを、何かを、想う気持ち――
・Coda|愛の本質は、変わらない。
Prelude|99 – その数字に込められた意味
ピアノが印象的なこの曲、TOTOの「99」。
美しく繊細なメロディに、こころがそっと引きこまれる。
わたしは映画『THX 1138』を観たことはないけれど、
この曲はその映画の世界観を背景にしていると言われている。
コンピューターが支配し、人々が番号で呼ばれる管理社会――。
歌詞では、〈99〉と呼ばれる愛する女性に、
やわらかく、でもどこかほのかな痛みをにじませながら、語りかけている。
その数字が、どれほどの意味をもつだろうか。
何度も繰り返されるその呼び名が、
コーラスとともに静かな余韻となって広がっていく。
Drift|誰かを、何かを、想う気持ち――
でも、わたしが名前を知らずに聴いていた曲があるように、
名前そのものには、あまり意味がないのかもしれない。
数字〈99〉も、ただの記号のように思える。
この曲の世界では、
人は番号で管理され、名前や個人性は薄れている。
だけど、そんななかで〈99〉と何度も呼びかけることで、
たった一人の特別な存在への思いが浮かび上がり、
その思いが届かないもどかしさが、より際立って感じられる。
たぶんこれは、「番号」や「名前」によって形づくられるものじゃない。
誰かが誰かを想う気持ち。
音楽を聴いて心がふと動く、その瞬間。
そういう“感じること”そのものに、
ほんとうの意味があるのかもしれない。
「99」という曲のなかで、
くり返される感情のゆれや孤独感――
それは、ただ「I love you」と伝えるだけでは届かない、
届かない想い、触れられない距離、
そして、諦めきれない願い。
名前が奪われ、心が遠ざかっても──
「I love you.」と歌われるその瞬間、
音はふっとやわらかく、あたたかさを帯びていく。
“あなた”を想う気持ちだけは、消えずにそこにあった。
たとえかすかでも、そこに確かな希望を感じた。
やるせない想いが流れる物語のなかで、
“愛している”というシンプルで力強い言葉と、
美しいハーモニーが重なったとき、
聴く人の心に、やさしい救いとぬくもりがそっと残る。
そして気づいた。
この曲のなかでくり返される “I love you” も “Anymore” も、
ただの言葉の反復じゃない。
愛しているからこそ、傷つけたくない。
でも、愛しているからこそ――
わたしたちは、離れることを選ぶこともある。
「I don’t want to hurt you anymore」というフレーズに、
本当の別れよりも、もっとやさしくて、もっと痛い決意が込められていた。
繰り返される “more, more, more” が、
感情のゆれを抱えたまま、静かに心の奥に降りてくる。
愛している。それでも──
これ以上、あなたを苦しめたくない。
Coda|愛の本質は、変わらない。
〈99〉という存在への愛、別れの痛み。
そして、誰かを想うという、変わらぬ気持ち。
たとえ映画の世界観に少し戸惑ったとしても、
その想いは、静かに心に染み込んでくる。
きっとそれは、どんな時代や状況のなかでも、
変わらない“愛のかたち”を描いているから。
胸が締めつけられるような場面もある。
けれど、「I love you.」というやさしさと、ハーモニーの美しさが、
この曲にそっと希望の灯をともしてくれる。
その響きにふれたとき、
私たちは少しだけほっとして、
また前を向いて歩いていける気がした。
でも──だからこそ、音だけにふれて、
こころが動いたその瞬間を、まっすぐに感じられたのかもしれない。
🎧 1979年。
どんな時代でも、誰かを想う気持ちは変わらない――
洗練されたAORサウンドにのせて、
番号〈99〉に込められた愛とせつなさを描いた、
そっと心に残るTOTOの名バラード。
♫ 99 – TOTO
・Year: 1979
・Album: “Hydra”
・Genre: AOR/West coast rock