I Keep Forgettin’ – Michael McDonald|忘れるふり、を覚えてしまった夜。
≋ Gentle Waves no.7 ≋
・Prelude|忘れようとして
・Drift|消えない気配
・Coda|忘れるふり、を覚えてしまった夜。
Prelude|忘れようとして
忘れようとして、
忘れたふりをして、
それでも、忘れきれない。
何度も繰り返すうちに、
忘れる「ふり」の方が上手になってしまった夜があった。
あの声が流れたとき、
しまい込んでいた記憶が、不意にこぼれ落ちる。
忘れたいのに、忘れられない声ごと、
わたしはずっと、抱えていたのかもしれない。
──どうして、まだ、こんなにも。

Drift|消えない気配
ゆるやかで、でも力強いリズム。
ベースがぐっと深く響いて、心のどこかを揺らしていく。
淡々と続くように見せかけて、実は逃げ場のないビート。
逃れようとしても、気づけばまた同じところをぐるぐると回っている。
忘れたはずの感情が、何度も顔を出す。
忘れたふりをして、やり過ごした記憶が、いくつも追いかけてくる。
「I keep forgettin’」
──気がつけば、口ずさんでいた。
まるで、身体だけが真実を覚えているかのように。
言葉よりも先に、声が心の本音をこぼしていた。
忘れたふりをしながら、忘れたことにしたかっただけなのかもしれない。
Coda|忘れるふり、を覚えてしまった夜。
夜が深くなるほど、リズムは心になじんでいく。
たぶんわたしは、
忘れるふりをしている自分に、しがみついていたんだ。
まだ、向き合う覚悟ができていなかったから。
たまに誰かとの会話の中で、ふいに思い出すことがある。
でもそのときわたしは、
「……ああ、そんなこともあったね」って、
少し笑って、なんでもないふりをする。
少しだけ、痛くなくなる気がして……。
でも、ほんとうはわかってた。
忘れたいんじゃない。
きっと、まだ──信じたくなかっただけ。
音楽は、そんなふうに逃げているわたしを、
静かに、でも力強く支えてくれていた。
せめてこの夜だけは、
“忘れたふり”を続けてもいいよね。
──忘れるふり、を覚えてしまった夜に。
忘れたい気持ちも、忘れたくない気持ちも、
どっちもそのままでいいと思えたんだ。
🎧 1982年。
ソロとしての新しい一歩とともに、この曲は生まれた。
忘れることも、覚えていることも、
そのまま抱えていいと、そっと背中を押してくれた──そんな夜に。
♫ I Keep Forgettin’ – Michael McDonald
・Year: 1982
・Album: “If That’s What It Takes”
・Genre: AOR/Soul
・Writers: Michael McDonald, Ed Sanford, Jerry Leiber and Mike Stoller
・Guest Musicians: Steve Lukather, Jeffrey Porcaro, Louis Johnson and Maureen McDonald.